PROFILE【橘 ジュン】BONDプロジェクト代表。10代の終わりに、レディスのリーダーとして取材を受けたことをきっかけで、女の子の声を伝える活動を開始。2006年『VOICES』を創刊。これまで3000人以上の声を聞き、生きづらさを抱えた10代20代の女の子たちの支援活動を東京・渋谷を中心に展開。公式サイト/http://bondproject.jp/
聞き手:山田エイジ/構成:松澤有紗

生きづらさを抱えた女の子たちって『消えたい』って言葉の前に『居場所がない』って表現する子が多いですね。

山田
橘さんの活動について教えてください。
10代、20代の生きづらさを抱えた女の子たちの支援をしています。生きづらいっていろいろあると思うんですけど、誰にも話せない想いを一人で抱えていて、生きるか死ぬかぐらいせっぱつまった状況の女の子たちです。彼女たちの話を聞いて、一緒に考えて、必要ならばその先につなげていく支援をしています。BONDプロジェクトといいます。
山田
まずどのようにして声を聞くんですか?
私たちは、女の子たちの声を伝える『VOICES MAGAZINE』という雑誌を作っていて、それをもって街を歩いて、終電後に街をさまよってるような子に取材ということで声をかけるんです。それで取材しているうちに、いろいろと話をしてくれるようになって、ぽつぽつと『じつは今妊娠していてもう産まなきゃいけない時期なのに病院にも行けてないし、親にも相談できてない』って話しだしてくれるんです。それから病院を探したり、行政につないだりするんです。
山田
他にはどんな子が?
家族のこと、学校のこと、仕事のこと、交際相手のことで悩んでたり、DV性暴力や虐待もそうですが、妊娠中絶、望まない出産など、本当にいろいろあるんです。
あとは援助交際や犯罪に手を染めざるを得ない女の子たちもいるんです。居場所のない女の子たちが悪い大人たちと出会って、彼女たちは『今、この人が必要だ』って信じてしまって犯罪に巻き込まれたり覚せい剤をやったり。ありとあらゆる依存症をかかえている子達がいるんです。
山田
その原因って何なんでしょうか?
人それぞれなんですよ。親や出会った人から性暴力を受けていたり学校でのいじめもそうです。自分を好きじゃない、という子が多いです。自分を好きじゃないって子は、人のことも信用できなくて、社会や大人に対して希望を抱いてくれない、それが生きづらさにつながっている子が多かったりしますね。ある女の子は声が出せなくなって筆談になったり、オーバードーズと言いますが、精神薬を大量に飲んでフラフラな状況という子もいます。
それぞれ、その時に自分を傷つけて『もうどうでもいい』という状況だと思うんですけど、自傷行為を繰り返している女の子たちって、必ずといっていいほど、『死にたい』という言葉の前に『消えたい』があるし、『消えたい』という言葉の前に『居場所がない』という言葉で表現している子が多いですね。
山田
生きづらさの根本的な原因は、居場所がないってこと?
実際に帰る場所がないという子もいるし、学校にいても家の中にいても自分の居場所がない、という子が多いかな。
山田
最近の傾向で、こんな子が増えたというのはありますか?
ネットによるトラブルが多いですね。身近な人には悩みを話せない、知られたくないということで、ネット上に出会いを求めて、相手が下心のある男性だったりすると、そこからいろいろな被害や犯罪に巻き込まれることもあるんです。
山田
これから、そうした生きづらさを抱えた女性達をなくしていくためには何が必要でしょうか?
まず、知ってもらいたいと思うんです。だから、私たちは聞いて伝えるということを続けているのですが、どうしてそうしなければいけなかったのかというのは、本人だけ、家族だけの問題ではなかったのかもしれないと。
山田
他にどこが問題が?
社会全体ですよね。だから、聞いて伝えるという活動は続けていきたい。知らない、興味がないということは、みんなそうだと思いますが、耳に入ってこないと思うんです。だけど何か事件が起こるたびに、してしまった本人だけを責めるのは、当然で簡単なことかもしれないけれど、そうではなくて、じゃあどうしたら、そういう風にしなくてよかったか、ということを社会全体で考えてもらえたらいいのかな、と思っています。
山田
橘さんが、そこまでこの活動にかける情熱はどこからきてるんですか?
目の前にその子がいて、その子から、その話を聞くっていうことだと思います。聞いたことが動機です。
山田
聞いて、おかしいなぁって。。
おかしいな、じゃなくて、そうなんだ、と思ったんですよ。そうだったんだ、と思ったのです。それは、自分が経験したかしてないかということは関係なくて、そこで聞いて、私は伝えることをやりたいと思って伝えてきたので、まずは、そういう子がいることを知ってもらたいたいと思って始めましたね。
でも、聞いて伝えるだけでは、どうにもならない状況の子が多いのも確かです。例えば、家がない、だから今日暮らすために援助交際をする、でも援助交際した相手から避妊もされず妊娠してしまった。だけど、保険証もない、お金もない、相談できる人もいないといって、お腹の子だけが大きくなっていき、駆け込み出産になってしまったという女の子とか。
それで最近は、聞いて伝えるだけじゃなくて、その先の行政や弁護士さんや、病院などにつないでいくこともするようになりました。

話を聞いてくれる大人との出会いで、自分の「生きづらさ」に気づくことができる。

山田
そもそも橘さんが支援をはじめるきっかけは?
私も取材で、自分のことを聞いてもらえる大人との出会いがあったんですよ。10代のころ。それで、こういう大人になりたいなと思って、20才くらいから、自分も聞いて伝えるということをしているんです。
山田
聞いてくれることで癒しになった?
癒しというか、こんな大人がいるんだ、と思ったんですよ。自分の周りには、学校の先生や親という大人しかいなかったので、そうじゃない大人がいて、私たちの話を聞いてくれる、ただ、聞いてくれる、という大人がいるという出会いに、新鮮さを覚えたんです。
山田
聞いてくれる大人がいた時に、自分はどんな気持ちに?
あぁ、私もこんなこと、いろいろ考えているんだなと思った。考えていなかったつもりだったけど、悩んでいないつもりだったけど、いろいろ考えてて、悩んでて、困っていたんだなぁとか、いろいろ知ってもらたいたいとか、わかってもらいたいと思っていたんだな、ということに気づけたんです。
山田
話を聞くということで自分の悩みに気づくってことですか?
10代20代の頃って、自分のことが自分で一番よくわかっていないって頃だと思うんです。私たちが聞いている子達もそうだけど、何に悩んでいるかさえもわからなかったり、例えば、虐待をされている子が、自分が虐待をされているということもわかっていないんですよ。
『それって、つらかったね』と、人に言われて、『あぁ、そうだ、苦しかったんだ』とか、『逃げたいと思っていたんだ』ということに気づけることもあるんです。
山田
親からの虐待を受けていて、それ自体に気づいていない子に気づきを与えて、そこから少しづついい方向にもっていくって相当時間がかかりそうですね。
はい。長い時間が必要です。そんなにすぐには、正解を用意したって、そこに当てはめることなんて出来ないんですよ。人の気持ちなんて、みんな違うし。私たちの間にはいろいろなネットワークが、こういった活動をしている中で出来ていて、いろいろな先輩たちからいろいろな助言やアドバイスをいただいたり、一緒に考えてもらい、「こうしたらいいよ」って答えは出るんです。だけど、そこに行くまでが、本当にギャップを感じるんです。本人がしたいと思っていることと、大人が用意している答えに。
私たちよりも、相談してくれた、その子がギャップを感じているんです。それを埋めるには時間しかないし、信頼関係しかないな、と思っているので、だから私たちは、会いに行くということもするんです。全国のつながっている子に、自分からは来られない、会えない子に、会いに行って話を聞くこともしてるんです。すごく時間がかかります。
山田
これからBONDプロジェクトではさらにどんな活動をしていきたいですか?
夢は、街にシェルターのような、相談できる移動カフェみたいなことをやりたいんですよ。車で行って、そこで弁護士さんや保健師さんがいて、街にいる女の子たちに声をかけて、ちょっとお茶でも飲もうよといいながら話をして、必要だったらその場で保護してあげて、という移動相談カフェをやりたいと思っています。
私たちは、支援者というよりは、応援団みたいな感じでいたいと思ってるんですが、生きづらさを抱えた子たちって『ここは安心だよ、なんでも話していいんだよ』って教えても、心を許せる大人との出会いを経験してないから、何が安心かわからない子たちなんですよ。
だけど、私たちと一緒にしゃべって、ご飯食べたり、お茶飲んだりして同じ時間を過ごすうちに、『あ、この人達が言っているなら』と思ってもらえるようになった時、『一歩踏み出してみようかな』と思う。その時にはじめて私たちは応援団として背中を押す役目ができるって思ってるんです。だからゆっくりと話ができる、しかも気軽に会える場所として移動相談カフェがやりたいんです。
山田
全国の繁華街にひとつ、そういう場があるといいですね。
そうなんですよ!まずは渋谷から始めて、新宿とかありとあらゆる場所でやれたらいいなと思っています。
山田
最後に橘さんが活動をされていて、どんな時に一番やっていて良かったなって喜びを感じますか?
彼女たちが、生きている時。あ、生きてた!と思えることですよね。そのぐらい状況が大変な子たちが多いから。消えたい、死にたいと言ってた子たちが、『あ、ジュンさん、生きててよかったと思える事があったよ』と言ってくれたりすると、『あぁ、よかったなぁ』と思います。