隣人[LGBT]100人のカミングアウト
約5%の人が、LGBTというデータがあります。日本の人口で言うと約680万人。Lは、レズビアン。Gは、ゲイ。Bは、バイセクシュアル。Tは、トランスジェンダー。多様な「性」が当たり前で、セクシュアルマイノリティが「ふつう」な社会にしていくために。私たちは、勇気をもってカミングアウトしているLGBTの人たちの「思い」を写真と記事で伝えていきます。そして100人集まった段階で、写真集として出版していく予定です。
PHOTO・TEXT:藤元敬二
バブリーナ
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バブリーナ
34才
タレント/LGBTポータルサイト「2CHOPO」編集長/ドラァグクイーン
Q.いつカミングアウト?
家出中に部屋にあった男性写真の切り抜きを母親が見つけて。
「友達が死ぬことが一番辛い。」午後8時、日曜日のファミリーレストラン。気の置けない友達と喋っている時が一番楽しいと話すバブリーナさんは、今年5月に亡くなった親友の真崎航さん※1を思い出していた。ドラァグクイーンやタレント活動に加え、ポータルサイト2CHOPO※2での編集長も務めるバブリーナさんは、同サイトから真崎さんへの追悼文を出筆した。「彼のことを少しでも多くの人達に伝えたかったし、それを通して自分の心に整理を付けたかったのかもしれません」
元々福岡の田舎に育ったバブリーナさんは、幼少の頃からロボットよりもぬいぐるみをねだり、母や祖母のスカートを履いたり、口紅を塗って遊んでいたという。高校生の頃に、母との喧嘩を機に家出をして東京へ向かった。行き先はテレビドラマ『同窓会』※3で知った新宿2丁目と決まっていた。辿り着いたものの、知り合いも居なかった彼に行き場はなかった。そして夜中に一人で2丁目の本屋や公園を行き来していたところを男性に呼び止められる。そのまま男性と同棲を始め、アルバイトを始めた。男性からの連絡で母が仕事先に現れ、手紙を残していったのはそんな矢先のことだったという。
上京を認めてもらう為に福岡に帰省すると、自分の部屋に隠してあった好きな同級生の写真を撮りまくった男だらけのアルバムや、裸の男性の雑誌の切り抜き、同人誌のゲイ漫画などは綺麗に整頓してあった。それらを確認した母は「あんたの好きな様に生きなさい。」と、上京を認めてくれたそうだ。
最近バブリーナさんには考えさせられることがある。18歳で始めたドラァグクイーンの仕事。当初はただ自己顕示欲を満たす為にやっていた。その後、師匠の様に慕うブルボンヌさん※4の影響もあり、イベントオーガナイズやテレビ、編集の仕事にも挑戦した。それらを通して様々な職種のプロ達と向き合うことも増えていったそうだ。今では新宿2丁目を基軸として、様々な分野に進出していけることに喜びを感じているという。「この瞬間にも新しく女装する子達が出てきています。私が同じ場所にいたら、その子達に出番はありません。私に求められていることは新しい畑を耕していくことだと思っています。」
「あんた、結婚せんのね?」 女装姿でテレビに出る様になったある日、心のどこかで諦め切れていなかったのであろう母は突然聞いてきた。「結婚できないし、孫の顔も見せてあげられない。ごめんね。」と改めて伝えたバブリーナさんに、母は笑顔で言った。「じゃあ永代供養できるお寺、探さんとね。」
質問が将来の不安に至った時、バブリーナさんは遠くを眺める。孤独死への不安だ。ロールモデルの欠ける同性愛の世界では、どの様に将来を考えていいのか分からなくなることもよく有るという。「とはいえ私が死んだら母の面倒を観る人もいなくなるし、友人達の死を通して命の大切さを考える機会も増えました。結局一人で生きてはいけないのだし、周りの人達と共存していかなければと感じています。」
バブリーナさんは今年、各政党へのアンケート調査を行った。ほとんどの政党からはLGBT政策についてのポジティブな返答を頂いたそうだ。”声があがらなければ動けない”との自民党からの要請に答える為にも、今は沈黙しているより声を上げ続けていきたいと感じている。「LGBTは歴史的に変化の時期にあると思います。今後は自らタイミングを作ることに携わっていけたらと思っています。」
日陰で積み上げて来た経験達を、陽光が照らし始めている。
※1:1983年生まれのゲイビデオ男優。日本国内のみならず、台湾、中国、タイなどでも人気を博した。2013年5月に播種性血管内凝固症候群に依って死去。
※2:新宿2丁目を中心としたLGBTカルチャーにおけるエンタテインメント、社会、生活情報などを発信し、多様な価値観をナビゲートするLGBTポータルサイト。バブリーナさんが編集長を努めている。(http://www.2chopo.com/)
※3:1993年に日本テレビ系列で放送されたテレビドラマ。男性同性愛やバイセクシュアルをテーマとしており、ゴールデンタイムに於ける連続ドラマとしては初めて同性愛を本格的に扱った作品。
※4:1971年生まれの女装パフォーマー。タレント活動、雑誌への連載、情報サイトの管理、ゲイイベントへの出演や新宿2丁目「Campy!Bar」のママなど、その活動は多岐にわたる。
トク
012
トク
44才/土木建設業
Q.いつカミングアウト?
10年程前。
同性愛サイトへのアクセス履歴を弟に見られて告白。
「兄さんも人だったんだね」と受け入れてくれた。
土木業を営むトクさんがゲイであると気づいたのは思春期の頃だそうだ。告白することはタブーであると思っていた。周りの同僚達が結婚して家庭を築いていくなかで、30代半ばまでは何度も見合いをしたが、結婚に踏み切ることはできなかったそうだ。
トクさんに転機が訪れるのは10年程前、IT関係の仕事に就いている弟が使わなくなったパソコンを実家に置いていった時であった。「おそるおそる触れたキーボードでゲイという文字をタイプしたことが自分自身へのカミングアウトだったのではないだろうか」トシさんは当時を振り返る。
やがてネットを通じて一人の男性と知り合うことになる。トクさんと同じ30代半ばの彼はやはり結婚を迷っていた。同じ様な境遇で 孤独に生きていた2人はやがて惹かれ合う様になる。
そんなある日、実家に帰省していた弟がネット履歴を検索して同性愛サイトへのアクセスを見つけた。理由を聞かれたトクさんは迷ったが告白をした。弟は「兄さんも人だったんだね」と笑ってくれたという。それを機に、一緒に暮らす母や、職場の同僚何人かにカミングアウトをした。みんな受け入れてくれたそうだ。「彼がいなければ言えなかっただろうね」トクさんが当時を振り返る。
そんな交際も5年前に彼の結婚を 機に終わることになる。その後も付き合った人はいたけれど長続きはしなかったという。共に暮らす母の介護が現在の生き甲斐の一つになっている様だ。
「不安なことはたくさんあるけど、そういう時は酒を飲むのさ(笑)。
僕はもう若返れないけれど、もし甥っ 子がゲイだとして、将来同じ問題を抱えるのはやっぱり悲しいね」そう言って笑う彼の日常は、いくつもの影と共存している様に感じた。
タケシ
016
タケシ
22才/販売業
Q.いつカミングアウト?
カミングアウトしていません。
っていうか、その必要がない。
メイクやしぐさでみんなわかってると思うから。
「今日はよろしくお願いします」地方の名家に育ったという彼のあいさつは、体に入ったタトゥーの印象とは違う、ずいぶんと落ち着いたものだった。
都内で販売業を営むタケシ君は現在22歳。元々温厚な性格だったという彼は幼い頃から人ともめることはあまりなかったそうだ。
「一人っ子というプレッシャーがあったので、学生の頃は色々な葛藤がありました」
地元にいると流されしまいそうだと感じた彼は、高校卒業を機に大阪に出て飲食店で働き始めた。そんな彼にある日一つの事件が舞い込む。宿場である彼の部屋の引き出しで、同僚が化粧品を見つけたのだ。口に出して罵られる様なことは無かったが、その日から話しかけてくる同僚はいなくなったそうだ。そんな生活で精神状態を来した彼は、20歳で上京することになる。
とにかく自分のことを知らない人達がいる所に行きたかったらしい。「正直どんな社会になるかは期待していません。私のことを笑う人は、私を笑えなくなったら今度は他の人を笑うと思います」彼は言い切る。
東京の職場ではあまり性のことは気にされていないと話す彼だが、道端でメイクを揶揄されることは今でもたまにあるそうだ。
現在タケシ君が好意を寄せる男性には彼女がいる。「彼女がいるかいないかはどうでもいいんです。私に向かって笑ってくれるだけでうれしい気持ちになるんで」真面目な顔が一瞬緩んだ。性別に関わらず恋愛 で問われているのは結局同じところ、相手をどこまで想い続けられるかという自分自身なのであろう。
ツトム
034
ツトム
21才/大学生
Q.いつカミングアウト?
最近。
最近つき合い始めたボーイフレンドのことを大学の友人たちに告白。
おかげで男性からも女性からも恋愛相談が増えた。
都内で大学に通うツトム君は今年21歳になった。中学生の頃には自分が男性に興味を持っていることを自覚していたが、何となく年齢と共に消えて行くのではないかと思っていたという。
周りの友人がクラスメイトに初恋をしていた頃、彼は近所の建築現場で働く青年が気になっていた。仕事姿が見たくていつも建築現場の近くで遊んでいたという。結局、年齢も生活環境も違う彼の思いは伝えられることはなかったが、今でも素敵な思い出なのだそうだ。
現在、ツトム君には付き合って3ヶ月になる初めての彼がいる。出会いはカンボジアだった。夏の一ヶ月を使い東南アジアを旅行していた祭に、安宿のドミトリーで出会ったのだそうだ。彼はツトム君と同じ様に東南アジアを旅している大学生で、息の合った2人はその後一週間を共にすることになる。そしてツトム 君が日本に帰る前日、公園で告白したという。
帰国後、ツトム君は付き合い始めたことを親しい友人達に話した。最初は驚いていたが、今ではみんな理解してくれているそうだ。告白のおかげで両性の友達からの恋愛相談も増えたという。「ずっと一緒にいたいけれど、権利の上では一緒になれないという不安はもちろんあります。僕たちにも 同等の権利が与えられるべき社会が理想だと思っています」ありふれた言葉だが、長年憧れていたものを手に入れた青年の口から語られるそれは特別な響きを持っていた。
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【藤元敬二(フォトグラファー)】1983年生まれ。広島県出身。米国州立モンタナ大学卒業後、ネパール、中国、北朝鮮、タイなど世界各地でのドキュメンタリープロジェクトを制作、発表している。賞歴に上野彦馬賞・日本写真芸術学会奨励賞、ゴードンパークス国際写真コンテスト・グランプリなど多数。